17時から9時までの読書録

読んだ本の感想から購入した新刊・古書の報告、その他雑多なことまで

総括

このブログを開設したのがいつだったのか。確認したところ、昨年の12月だった。
我ながら放置具合に唖然としたものの、このまま一年経過なんてことになったら洒落にもならないので、何かしら書いてしまおうと思う。

先だって、2ヶ月ほど試験勉強に生活を縛られてしまっていたので、その間の気休めに読んだ小説の話をして、総括してしまうことにする。
読み終えた作品については、一応記録しているので簡単に遡れるのだ。

7月始めに読み終えたのは、伊藤計劃『ハーモニー』だった。

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

第1長編『虐殺器官』を読んだのが2月中旬。こちらはフェリーでの移動中に読み、読後その面白さに気分が高揚した覚えがある。SF初心者だったが作中で挙げられるガジェットの格好良さと近未来的な世界観とでぐいぐいと話に引き込まれた。また推理小説・スパイ小説的な要素も盛り込まれてたこともあり、良質なエンタテインメントとして楽しむことができた。
それから半年近く、第2長編である本作に手を出していなかった(時間や気分といった問題もあった)が、一読して積んでいたことを後悔させられた。
Watch me”に管理されることで病気がほぼなくなった”ユートピア”。そこで生きることに疑問を呈し、反逆の意を示した少女たち。13年を経て大人になった彼女たちを取り巻く事件と、その行く末まで一気呵成に読まされてしまった。両者再読することで評価が変わるかも知れないが、現状計劃の長編作品でどちらをとるかといわれれば、この『ハーモニー』を挙げることになりそうだ。
次は発売直後だった劉慈欣『三体』。丸善仙台アエル店で開催された仙台BOOKCONで早川書房のブースが出店すると聞き付けて、ここで購入した。その後、SF研の部会が行われたので急いで読んだ記憶がある。
三体

三体

仙台BOOKCONでは他に早川書房のブースにて陸秋槎『雪が白いとき、かつそのときに限り』のプルーフを頂いたり、河出書房のブースで40周年に向けた話を聞けたので楽しかった。
さて本題の『三体』だが、第1部は文化大革命期の中国本土を舞台に話は進みあまりSFさを感じさせないように思えた(このパートも勿論面白かった)が、第2部からは現代中国でVRゲーム”三体”を中心に科学者たちの物語が進んでいく。この”三体”内では偉人に扮したプレイヤーがゲーム内で起きる“三体問題”を解決しようと頭を悩ませる。一つの問題が片付いても更なる難題が降りかかり、クリアにまではたどり着けない。偉人(プレイヤー)たちの会話や振る舞いなども楽しみの一つだった。このうちの1章分を独立して短篇化したものが今年の星雲賞にも輝いた『円』だ。こちらは”三体”とは無関係な作品で、史実にある程度則ったまま、SF的ガジェットが自然と導入される。壮大な規模で行われる企みとアッと驚く結末まで歴史短篇小説としても優れた作品だと感じた。
『三体』は3部作の1作目、かつ全体の分量の5分の1程度ということで、まだまだ楽しむことができると思うと、次作の翻訳が待ち遠しい限りである。

理研なのにこの時期はSFしか読み切れていなかったのでこれ以降推理小説に立ち返っている。
城平京『虚構推理』はその嚆矢となる作品だった。

虚構推理 (講談社タイガ)

虚構推理 (講談社タイガ)

元々、片瀬茶柴による漫画版を先行していて、話の筋自体は把握していたものの来年のアニメ放送前に小説版を読み考えをまとめたいと思っていたのだ(それについては、別途書き上げて、部会用のレジュメなどへの転用もしたい)。
大筋に特に変更はなく、漫画版との違いを探す気持ちが主となった気がするが、再読のような感覚で楽しめて読めた。最新長編『スリーピング・マーダー』は小説版を先に読むつもりなので、来月のコミック発売時には今回と逆に楽しむことができるはず。あとは、小学生以来の宿題を取りに行くといった感覚に近いが、原作・城平京、作画・水野英多のタッグで紡がれた『
スパイラル~推理の絆~』を読みきりたい(ちょうど15周年の節目でもあるし)。
ほかには、連城三紀彦『変調二人羽織』、若竹七海スクランブル』を読み終えた。
変調二人羽織 (光文社文庫)

変調二人羽織 (光文社文庫)

スクランブル (集英社文庫)

スクランブル (集英社文庫)

前者はいずれも『戻り川心中』に並ぶ技巧の凝った短篇群だったが、『戻り川~』よりも著者の遊び心のような意欲が感じられる作品だった。表題作・「ある東京の扉」・「六花の印」は以前読んだきりなので、再読して感想を書くことにする。この時期に「メビウスの環」「依子の日記」を読んだ記憶はある。両者ともに、冒頭から物語全体に不穏な雰囲気を纏わせる語り口だった。「メビウスの環」はある俳優夫婦間の愛憎劇でだが、終盤明かされる登場人物の意図に読了後、愕然とした覚えがある。「依子の日記」もまた、ある夫婦と彼らの平和をかき乱す女の三角関係が本筋となるが、流麗な語り口に張られていた作者の仕掛けにまんまと引っかかってしまった。いずれも大変満足いく短篇だった。
後者は以前、同著者の「葉村晶シリーズ」にハマった際に、ほかの傑作として強くおすすめされた覚えがあった作品だった。1970年代の女子校を舞台に、一つの殺人事件を中心に紡がれる少女たちの群像劇。素人探偵として犯人を推理することもあれば、学生としての生活にも明け暮れる。そんな日常にも些細なトラブルは起こるし、謎が生じることも。苦くて淡い彼女たちの青春時代。当時の実際を知ることはできなくても、その雰囲気を感じ取ることはできる。誰もが少なからず謎を抱えたまま生きていることを知る、大人になる直前の時期。そして大人になり、謎が解かれたあと、どう行動するかを選ぶ。青春の喜怒哀楽と殺人事件の謎、そして著者が描く少女たちの心情。全てが渾然一体となった愛すべき青春ミステリの一冊だろう。

以上が七月に読んだ本の感想となる。この頃はまだ余裕があったように思える。このあと8月下旬頃まで読書を控えていたが、途中耐えきれず(気が狂いそうだった)、短篇の再読や短めの長編をつまんでしまった。
坂口安吾天皇陛下にささぐる言葉』は「不良少年とキリスト」の余韻に浸っていた時期に手に入れていたもの。

天皇陛下にささぐる言葉

天皇陛下にささぐる言葉

個人のイデオロギーとは無関係に、安吾の文章に引き込まれ、同時に彼の先見性に感服してしまった。
安吾といえば、傑作『不連続殺人事件』の著者でもあるが、未完の長編『復員殺人事件』がこの度文庫化されたのは書店で偶然見かけて喜びに包まれた(高木彬光が書き繋ぎ、『樹のごときもの歩く』として刊行。その後絶版だった)。
復員殺人事件 (河出文庫)

復員殺人事件 (河出文庫)

再読の西澤保彦エスケープ・ブライダル」「エスケープ・リユニオン」(『必然という名の偶然』所収)は大富豪探偵月夜見ひろゑが探偵役。

作中でも述べられる筒井康隆『富豪探偵』(ドラマ版)をオマージュしたような「エスケープ・ブライダル」は何度も花嫁に逃げられてしまう男の結婚式での一幕。初読時、そのスケールの大きさに圧倒された覚えがあるが、再読してみて書き出しから月夜見ひろゑの登場、解決篇まで無駄のない短篇だと感じた。人間よりもトリックが先行してしまっている点が若干欠点となりうるかもしれないが、それをカバーしつつ物語として閉じようとしているのが「エスケープ・リユニオン」だと考える。こちらは謎と推理と事件との繋がりが弱く感じられてしまう一方で、前作のしこりを解消させる展開になっている。短編集の劈頭と掉尾を飾っている構成からもセットで読まれるべき作品だと再読して思えた。

フランツ・カフカ『変身』は言わずと知れた海外文学の名作。

変身 (新潮文庫)

変身 (新潮文庫)

以前ALTEREGO帯目当てで購入以来、積んでいたが、この時が読むべきタイミングだったのだろう。
衝撃的な書き出しから、淡々と語られるグレーゴル・ザムザの悲劇。そこに決して救いはない。よくカフカを引き合いに出される「不条理」の一端を垣間見ることが出来たような気がする。国内海外問わず、文学作品もま未読の作品が多いが、さらに読み進める良い契機を与えてくれる作品だった。

そして、久しぶりに解放された現在、読んでいるのは巷で話題になっている伴名練『なめらかな世界と、その敵』。

なめらかな世界と、その敵

なめらかな世界と、その敵

表題作のみ読んだが、視点の切り替わりの技巧が卓越している。映像化不能だがとても視覚的な読書が出来、興奮させられた。もちろんSFとしても文句なしの作品。残り5篇もじっくり味わいたい。

次回からはもう少し瀟洒なタイトルをつけたい。