総括
このブログを開設したのがいつだったのか。確認したところ、昨年の12月だった。
我ながら放置具合に唖然としたものの、このまま一年経過なんてことになったら洒落にもならないので、何かしら書いてしまおうと思う。
先だって、2ヶ月ほど試験勉強に生活を縛られてしまっていたので、その間の気休めに読んだ小説の話をして、総括してしまうことにする。
読み終えた作品については、一応記録しているので簡単に遡れるのだ。
7月始めに読み終えたのは、伊藤計劃『ハーモニー』だった。
- 作者: 伊藤計劃,redjuice
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/08/08
- メディア: 文庫
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それから半年近く、第2長編である本作に手を出していなかった(時間や気分といった問題もあった)が、一読して積んでいたことを後悔させられた。
”Watch me”に管理されることで病気がほぼなくなった”ユートピア”。そこで生きることに疑問を呈し、反逆の意を示した少女たち。13年を経て大人になった彼女たちを取り巻く事件と、その行く末まで一気呵成に読まされてしまった。両者再読することで評価が変わるかも知れないが、現状計劃の長編作品でどちらをとるかといわれれば、この『ハーモニー』を挙げることになりそうだ。
次は発売直後だった劉慈欣『三体』。丸善仙台アエル店で開催された仙台BOOKCONで早川書房のブースが出店すると聞き付けて、ここで購入した。その後、SF研の部会が行われたので急いで読んだ記憶がある。
- 作者: 劉慈欣,立原透耶,大森望,光吉さくら,ワンチャイ
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2019/07/04
- メディア: 単行本
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さて本題の『三体』だが、第1部は文化大革命期の中国本土を舞台に話は進みあまりSFさを感じさせないように思えた(このパートも勿論面白かった)が、第2部からは現代中国でVRゲーム”三体”を中心に科学者たちの物語が進んでいく。この”三体”内では偉人に扮したプレイヤーがゲーム内で起きる“三体問題”を解決しようと頭を悩ませる。一つの問題が片付いても更なる難題が降りかかり、クリアにまではたどり着けない。偉人(プレイヤー)たちの会話や振る舞いなども楽しみの一つだった。このうちの1章分を独立して短篇化したものが今年の星雲賞にも輝いた『円』だ。こちらは”三体”とは無関係な作品で、史実にある程度則ったまま、SF的ガジェットが自然と導入される。壮大な規模で行われる企みとアッと驚く結末まで歴史短篇小説としても優れた作品だと感じた。
『三体』は3部作の1作目、かつ全体の分量の5分の1程度ということで、まだまだ楽しむことができると思うと、次作の翻訳が待ち遠しい限りである。
推理研なのにこの時期はSFしか読み切れていなかったのでこれ以降推理小説に立ち返っている。
城平京『虚構推理』はその嚆矢となる作品だった。
- 作者: 城平京,片瀬茶柴
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2019/01/23
- メディア: 文庫
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大筋に特に変更はなく、漫画版との違いを探す気持ちが主となった気がするが、再読のような感覚で楽しめて読めた。最新長編『スリーピング・マーダー』は小説版を先に読むつもりなので、来月のコミック発売時には今回と逆に楽しむことができるはず。あとは、小学生以来の宿題を取りに行くといった感覚に近いが、原作・城平京、作画・水野英多のタッグで紡がれた『
スパイラル~推理の絆~』を読みきりたい(ちょうど15周年の節目でもあるし)。
ほかには、連城三紀彦『変調二人羽織』、若竹七海『スクランブル』を読み終えた。
- 作者: 連城三紀彦
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2010/01/13
- メディア: 文庫
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- 作者: 若竹七海
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2000/07/19
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後者は以前、同著者の「葉村晶シリーズ」にハマった際に、ほかの傑作として強くおすすめされた覚えがあった作品だった。1970年代の女子校を舞台に、一つの殺人事件を中心に紡がれる少女たちの群像劇。素人探偵として犯人を推理することもあれば、学生としての生活にも明け暮れる。そんな日常にも些細なトラブルは起こるし、謎が生じることも。苦くて淡い彼女たちの青春時代。当時の実際を知ることはできなくても、その雰囲気を感じ取ることはできる。誰もが少なからず謎を抱えたまま生きていることを知る、大人になる直前の時期。そして大人になり、謎が解かれたあと、どう行動するかを選ぶ。青春の喜怒哀楽と殺人事件の謎、そして著者が描く少女たちの心情。全てが渾然一体となった愛すべき青春ミステリの一冊だろう。
以上が七月に読んだ本の感想となる。この頃はまだ余裕があったように思える。このあと8月下旬頃まで読書を控えていたが、途中耐えきれず(気が狂いそうだった)、短篇の再読や短めの長編をつまんでしまった。
坂口安吾『天皇陛下にささぐる言葉』は「不良少年とキリスト」の余韻に浸っていた時期に手に入れていたもの。
- 作者: 坂口安吾
- 出版社/メーカー: 景文館書店
- 発売日: 2019/03/06
- メディア: 単行本
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安吾といえば、傑作『不連続殺人事件』の著者でもあるが、未完の長編『復員殺人事件』がこの度文庫化されたのは書店で偶然見かけて喜びに包まれた(高木彬光が書き繋ぎ、『樹のごときもの歩く』として刊行。その後絶版だった)。
- 作者: 坂口安吾
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2019/08/06
- メディア: 文庫
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再読の西澤保彦「エスケープ・ブライダル」「エスケープ・リユニオン」(『必然という名の偶然』所収)は大富豪探偵月夜見ひろゑが探偵役。
- 作者: 西澤保彦
- 出版社/メーカー: 実業之日本社
- 発売日: 2013/04/05
- メディア: 文庫
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フランツ・カフカ『変身』は言わずと知れた海外文学の名作。
- 作者: フランツ・カフカ,Franz Kafka,高橋義孝
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1952/07/28
- メディア: 文庫
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衝撃的な書き出しから、淡々と語られるグレーゴル・ザムザの悲劇。そこに決して救いはない。よくカフカを引き合いに出される「不条理」の一端を垣間見ることが出来たような気がする。国内海外問わず、文学作品もま未読の作品が多いが、さらに読み進める良い契機を与えてくれる作品だった。
そして、久しぶりに解放された現在、読んでいるのは巷で話題になっている伴名練『なめらかな世界と、その敵』。
- 作者: 伴名練,赤坂アカ
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2019/08/20
- メディア: 単行本
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次回からはもう少し瀟洒なタイトルをつけたい。